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お買いもの日記だったり、つぶやきだったり

「ワーニャ伯父さん」

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7月のことになりますが、演劇集団「円」の「ワーニャ伯父さん」を観てきました。

その雑感になります。

恥ずかしながら原作チェーホフという名は聞いたことはあっても、全く読んだことはありません。ですからこの舞台で得た印象でしか語ることはできないのですけれども。

 

ワーニャは劇中で47歳と言っていたかな?私よりも少し年上です。なのでワーニャに感情移入する部分が多いですね。

ワーニャは妹の夫をその学識ゆえに尊敬・信奉していました。義弟…とは言ってもワーニャよりずっと年上ですが、彼は大学教授でありその研究費用のためにワーニャは身を粉にして働きました。妹を亡くした後もです。でも信奉していたのは若い頃の話。今の義弟は老いて研究成果を何も残さず、ただプライドが高いだけの言わば穀潰しに成り下がってしまったのです。

ワーニャにしてみれば若い働き盛りの時間と財産を義弟に無駄にされたという感情が大きく、しかもその義弟が若く美しい後妻エレーナを連れてきてしまったのですから、負の感情でいっぱいになるでしょう。ワーニャはずっと独身であり、でも昔は少女時代のエレーナに恋をしていたこともあったようです。これだけでもドロドロしそう…。

エレーナの姿を見てから心身不安定になるワーニャの焦燥感みたいなものが何となく分かります。昔あの時エレーナに告白していれば…というような過去を振り返る作業。

歳を重ねるごとに、ああしていれば良かった、こうしていれば良かったかもしれないと思う出来事は増えるものです。そして40代を迎えると感じる身体の衰え。20代〜30代でも身体の衰えは感じますが、40代のそれはまさに「老い」だと思います。無理をすると身体に感じる負荷が全然違うのですよ。去年に比べると歯茎弱くなったな…とか、まさに笑いごとじゃなく!

もうやり直しは利かないのだと充分感じる年齢なのですが、ワーニャはひとつの望みにかけます。でもそれは…。

 

 

40代後半を季節に例えるとそれはいつ頃でしょうね。この物語は夏の終わりから秋にかけての数ヶ月になっているようですから、この時期に例えられるかもしれませんね。

そして、この物語では年齢構成が一人ずつ異なり、その年齢らしい人生観が語られるのも興味深いところです。登場人物の年齢順はこうかな?

ソーニャ(ワーニャの姪)< エレーナ < アーストロフ(ソーニャの片思い相手

< ワーニャ < 教授 < ソーニャの乳母

 

ソーニャの乳母はことあるごとに「神様の思し召しですよ」と自身を納得させ、周囲の人々を慰めます。貧しく辛く厳しい田舎の農村で長く生き抜いてきた彼女らしい言葉です。信仰が彼女の拠り所であり続けたのでしょう。

 

アーストロフは30代半ばのような雰囲気です。医師であり日々の仕事に疲れてはいますが、自然環境を大切にしたいという理想を胸に絶やさずにいます。

 

エレーナは恐らく20代終わり頃〜30代始めくらいでしょう。たぶん大学教授に憧れ結婚をしたものの、今では年老いた夫のプライド高い愚痴や介護に悩まされる日々です。でも、まだ若いですから恋をしたいという情熱を密かに抱いています。

 

教授は60代でしょうか。リューマチで苦しんでおり、それを周囲の人々にぶつけてしまいます。自分自身ではまともに生活費を稼いだことがないのに、ワーニャたちに対して「世の中のために仕事をしなさい」などと、こともなげに言ってしまう人です。しかも「世の中のため=自分の研究・生活費」と思っているようですから、始末が悪いですね。こういう人の介護をするエレーナも可哀想だと思ってしまいます。

 

この中で妙に老成してしまっているのが一番若いソーニャです。たぶんまだ20歳前後でしょう。「死んで天国に行ければ、そこでやっと一息つける」のだと、この若い女の子が言うのが哀しいところですね。

ソーニャはワーニャ伯父さんにもそのように言って慰めるのですが…この言葉の受け止め方も若いソーニャと、初老のワーニャでは深い隔たりがあるのだろうと思うと心苦しいです。

 

けして救われる物語ではないですが、夏の終わりの小さな花火のような輝きを見せる人生について考えさせてくれるお話でした。